退職金の不利益変更に関する判例に基づいた考え方

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 退職金の不利益変更に関する判例に基づいた考え方

{ 判 例 }
被告Cは、昭和48年8月に、D農協を含めた7つの農協の合併により新設され、原告Eら(3名)はD農協から引き続いてCに勤務してきた職員である。
合併に際して、給与や退職金等に関する労働条件の格差是正が図られ、Eらの給与や賞与、定年などの労働条件は引き上げられた。
しかし、退職金についてだけが、合併時点までに調整がつかなかったため、昭和49年3月、Cは新たな退職金規程を作成し、昭和44年3月当時、合併前の7つの農協に在籍していた者について、不利益を軽減するための特例措置が設けられた。
Eらは、昭和53年から56年にかけて定年退職し、Cは特例措置に基づく退職金を支給したが、特例措置の支給倍率はD農協の退職金規程の支給倍率よりも低かったため、Eらは、D農協の支給倍率に基づく金額と実際に受領した金額との差額を求めて提訴した。
判決は労働者側つまりEらの敗訴となった。判決の内容は以下の通り。

・就業規則の作成や変更によって、労働者に不利益な労働条件を一方的に課すことは許されないが、労働条件の統一化・画一化という観点から、変更された内容が「合理的」なものである場合には、これに同意しない労働者にも適用される。

・特に、賃金や退職金などの労働者にとって重要な権利、労働条件を不利益に変更する場合は、そのような不利益を労働者に及ぼすことが認められるだけの高度の必要性に基づいた「合理的」な内容でなければならない。

・Eらの退職金の支給倍率は以前より低く変更されているが、合併に伴う労働条件の格差是正の必要性が高いことはいうまでもない。
Eらは、合併後、給与や休日・ 休暇、諸手当などの面において有利な取扱いを受けるようになり、定年も延長されており、これらの措置は、退職金の支給倍率の引き下げに対する直接の代償措置ではないが、新規程への変更の合理性判断において考慮することのできる事情である。

・Eらが被った不利益の程度、変更の必要性の高さ、変更の内容、関連するその他の労働条件の改善状況に照らすと、新規程への変更は合理性があり、Eらにも適用される。

{ 判例のポイント }
・賃金や退職金などの労働者にとって重要な権利、労働条件を不利益に変更する場合、そのような不利益を労働者に及ぼすことが認められるだけの高度の必要性に基づいた「合理的」な内容でなければならない。

・退職金等を不利益に変更する場合には、その不利益を緩和する代償措置や経過措置をとることが望ましく、「合理的」な内容かどうかの判断において、代償措置は、直接的なものだけでなく、間接的に不利益を緩和するものまでも含まれることがある。

{ ポイントの解説 
・退職金の特殊性
退職金は、長期にわたる労働の対償として平常の賃金のほかに退職に際して支給される。
したがって、通常の賃金とは異なり、退職までの長期勤続を支給の前提とし、その具体的請求権は退職時に発生する。
そのため、退職金に関する約束は、企業経営や労使関係の変化等の事情から、長期の勤続の間に変更されることも多く、採用時の約束を退職時まで一切変更できないとすることは不合理といえる。
そして、退職金は、就業規則や労働協約により、その支給条件が明確に約束されている場合には、後払い賃金としての性格を有しており、重要な労働条件のひとつである。
また、退職後の生活保障的な機能を果たすこともあり、大幅減額のような変更は、退職を間近に控えた労働者にとって影響が大きい。
そして、長期勤続に対する功労報償的な性格を併せ持つため、労使の信頼関係を壊すような行為があった場合などに、減額支給や不支給が認められるものの、そうした行為がない場合には、一方的な不支給は認められるべきではないし、退職金の不利益変更についても、このような退職金の複合的な性格を十分に考慮しなければならない。

・退職金の不利益変更
退職金の不利益変更は、通常、就業規則等の改定を通じて行われる。
就業規則としての退職金規程を不利益に変更する場合、上記判例のように、「高度の必要性」が要求される。
また、退職を控えた一部の労働者に対して、具体的な不利益が及ぶため、不利益の程度やそれを緩和する代償措置の存否・ 内容が、変更の合理性判断において重視される。これらは、退職金の特殊性を踏まえたものといえる。
最高裁判決をみると、代償となる労働条件を提供していなかったことを理由として、退職金の不利益変更の合理性を否定した判例がある。
上記判例では、代償措置の範囲を広く理解し、直接の代償措置といえないものの、合併に伴う労働条件の改善点などを間接的な代償措置として評価し、合理性を肯定している。
あるでは、退職金支給率の引き下げに高度の必要性があることを肯定する一方、労働者の不利益を補填する代償金も不十分であり、定年年齢引き下げにより退職時期が早まることなどから、当該労働者に限って、就業規則の適用の効力を否定した。
退職金の不利益変更をめぐる紛争に関して、下級審の裁判例をみると、合理性を肯定するものもあるが、合理性を否定するものが比較的多い。
例えば、退職金の賃金としての側面を強調して、会社に業績悪化などの事情があるとしても、労働者の同意なしに退職金を不利益に変更することはできないとするものや、退職金規程の中で「従業員の代表との協議により改廃することができる」と定められている場合には、協議を経ることなく一方的に不利益に改定された退職金規定の効力を否定するものがある。
退職金を従来の約3分の2ないし2分の1に減少させるような著しい不利益変更の場合、経営環境の不良、従業員のほとんどの同意、改定後の退職金の額が全産業の平均的な水準にあること、加算年金または選択一時金の支給を受けることができることなどを考慮しても、合理的な内容と認められないとするものがある。

・退職年金・企業年金の不利益変更
退職金を年金の形式で定期的に支給することも多く、こうした退職年金の場合でも、就業規則によって使用者と退職者との法律関係が規律される。
企業年金について、ある判例では、経営悪化に伴い自社年金の支給額を3分の1に減額したことについて、恩恵給付的性格が強いこと、受給者の大部分が同意していることなどを理由に、減額措置を有効としたが、その後、金融再生法による破綻処理中の年金支給打切りについては、これを違法無効とした。
また、財政逼迫などの必要性があり、代償措置などの内容も相当であるとして、独自の年金制度の廃止の合理性を肯定したものがある。

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